わたなべクリニク院長雑記

 人生100年時代と突然言われても俄かには現実感が湧かない言葉でありましたが、どうやら絵空事ではないらしいと知りました。海外からの報告によると"日本では2007 年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きる"とされており、国連推計でも2050年までに100歳以上の人が100万人を超えるという予測がされています。政府は2017年に"人生100年時代構想会議"を立ち上げ、教育や雇用制度、社会保障など国の制度はどうあるべきなのか検討し始めております。これからは「教育・仕事・老後」という3ステージの従来の人生ではなく、職業寿命を伸ばした「定年も隠居もない人生設計」を考えなさいということかもしれません。

 "人生100年時代"となる根拠として、死亡原因第一位の悪性新生物を克服できる時代になってきていることが挙げられます。癌の早期発見にはmicroRNAを用いたリキッドバイオプシーなど特異度の高い検査がまもなく実用化され、1滴の血液で多くの癌のスクリーニングが可能になる日も遠い未来ではありません。もちろん非侵襲的スクリーニング検査は前立腺癌の腫瘍マーカー(PSA)が抱えるような過剰診断などの問題も内包していることを承知しておく必要はありますが、膵臓癌のように部位別癌死亡率第4位にも関わらず早期診断が難しい癌腫には福音となるかもしれません。また、私の学生時代には想像もつかなかったことですが、ピロリ菌を始めHPVや肝炎ウイルスなどの感染症が多くの癌発症に関与していることの発見は癌予防を大きく変化させてきております。さらに遺伝子で発症を予測し早期介入する医療も登場しており、このような"先制医療"が癌発症そのものを抑制し、"人生100年時代"において医療費を削減しつつ高齢化社会を維持することにも貢献すると期待されています。

 "人生100年時代"において医療人が果たすべき役割の一つは、これから迎える"定年も隠居もない"超長寿社会のなかで平均寿命と健康寿命との差を縮めることではないでしょうか。2016年の厚労省の報告では、平均寿命は男性81歳、女性87歳に対して健康寿命は男性72歳、女性75歳と人生の最後の約10年は日常生活に制限のある「健康ではない期間」があります。この健康でない期間の原因には脳血管疾患や心疾患、糖尿病などの生活習慣病の他、整形外科疾患などが関与していますが、我々医療人はこの期間をどのようにして短くしていくかを考えていかなくてはなりません。

かつては死亡率第1位の疾患であった脳血管疾患は2017年には3位にまで下がっておりますが、平成25年国民生活基礎調査によると寝たきりの原因の約4割は脳血管疾患(脳卒中と脳卒中による認知症)と報告されています。心疾患も含めて動脈硬化関連疾患が健康寿命に及ぼす影響は何よりも大きいことには異論はないでしょう。

1987年にスタチンが商品化されて以来、多くの脂質異常症は治療可能となり、種々の降圧剤、インスリンや経口糖尿病治療薬も長い歴史があります。それにも関わらず生活習慣病が社会的に克服されているとは言い難い状況です。生活習慣病は病識が乏しいことに加え、食生活を変えることはライフスタイルを変えることですから患者自身の資質に大きく左右されるのだと考えます。

2016年の報告によると生活習慣病の原因となる肥満の割合は20歳以上で男性約3割、女性約2割となっています。肥満の解消は生活習慣病治療の第一歩です。最近、食事療法の指導を含めたパーソナルトレーニングが流行りですが、カロリー計算を基にした減量体験は少なからず良い学習になります。医療者も教科書的な食事療法の説明だけではなく、"結果にコミット"した熱意ある指導をする必要があります。

私は25年間ほど透析医療に従事していましたが、糖尿病性腎症患者の透析導入ほど残念な気持ちになることはありませんでした。他の腎疾患とは異なり糖尿病による慢性腎不全は防げたかもしれないという思いがあったからです。顕性腎症になる前から"食事療法しましょう、減量しましょう"と熱心に説明しても患者さんの性格などに大きな壁を感じることもしばしばあります。今後の生活習慣病の治療には、薬物療法とともに精神面からアプローチする技術の確立も必要だと思います。

三菱総研の提言によると、医師の診療以外に医療サポートするチームによる"伴走医療"は糖尿病に限ったとしても利用意向を持つ人は全国で約260万人を数え、 "伴走医療"を生活習慣病診療に導入することで医療費は約2兆円減少すると報告しています。

薬物治療がほぼ確立されている生活習慣病に残された課題は、啓発を含む患者教育とメンタルアプローチの体系化のような気がします。鳥取県でも昨年"糖尿病性腎症重症化予防プログラム"が策定されました。潤沢な予算と人材を投入しないと十分には機能しないかもしれませんが、伴走医療の観点からも良い試みだと思います。今後の成果に期待しています。

スクリーンショット 2018-03-21 18.08.35.png

鏡視下手術は基幹病院で手術援助した症例数です。

診療統計は医療機関の評価や改善点の検討のため必要と考えております。当院では開院以来の6年間で計79症例の日帰り前立腺生検を施行しています。

1)患者背景

・平均年齢 66歳(51歳から79歳の方に前立腺生検を行っておりました。)

・PSA値 平均10.00ng/ml(中央値 8.0ng/ml) 実際にはPSA4.18から初診時に既に進行癌だった方のPSA2344ng/mlまでの幅がありました。また生検施行し前立腺癌を認めた被験者のPSAの平均値も10.00ng/mlでした。

・前立腺推定重量 54g(20180g) 前立腺の大きい方の生検は尿閉や血尿などの合併症が起きやすくなります。30g以上を前立腺肥大症と考えておりますが、180gの患者さんでも比較的年齢が若く排尿障害がない方でしたので生検後のトラブルはありませんでした。

2症例では脳梗塞後の抗凝固剤を内服しておりましたが、主治医の判断で休薬可能と判断され1週間休薬後に外来生検を施行しておりました。

2)合併症

・術後直腸出血:5分間程の圧迫止血を要する6

・血尿:生検直後に微量出血21例、翌日までの淡い血尿7例、2日目までの淡い血尿3例 7日目までの淡い血尿2例・・・45例は血尿を認めておりません。

・尿閉 2例:2例とも著明な前立腺肥大症の方で一人は帰宅後に排尿できず夕方に再受診され尿道留置カテーテルを1日留置しました。翌日抜去し自力排尿可能となり合併症はありませんでした。もう一人の方は夜間に基幹病院の救急外来受診され導尿をされました。翌日よりは正常に自力排尿可能でした。

・発熱・急性前立腺炎なし。

 前立腺生検で一番困る合併症は発熱・感染症です。出血はいずれ止まりますし、尿閉も一過性の合併症だと考えています。大学病院や基幹病院勤務の頃は年間5080例近い前立腺生検を経験しておりましたから、急性前立腺炎から敗血症に至った症例も複数回ありましたし、椎間板炎まで併発し椎弓切除術を必要とした症例も経験しております。予防的に抗生剤投与をしておりますが、症例数が増えればいずれ当院でも起きうる合併症と想定しています。前立腺生検のブログでは一般的な合併症の発生率も記載しておりますが、全国的な前立腺生検における合併症の発生率に比べ当院の合併症発生率は少ないようです。生検方法にコツはあるのですが、当院での合併症の少ない理由として 1)外来生検なので重篤な合併症のある方や合併症の起きそうな予感(非科学的な表現ですが、長年の経験でそう感じる時があります)がする場合は基幹病院に紹介している。2)教育機関としての基幹病院では研修中の医師が生検することが少なくない、ことが要因ではないかと推測しております。

3)生検結果

 31例(全体の39%)で前立腺癌を認めました。

悪性度が低い高分化型前立腺癌G1(グリソンスコア3+3):5例

悪性度が中等度の中分化型前立腺癌G2(グリソンスコア3+4):4例

悪性度が中等度の中分化型前立腺癌G3(グリソンスコア4+3):7例

悪性度が高いの低分化型前立腺癌G4(グリソンスコア4+4):7例

悪性度が高いの低分化型前立腺癌G5(グリソンスコア4+5以上):8例

 

 

お蔭様で開設5年を迎えることができました。これまでの診療の反省と医院の現状を知るためにも疾患別の統計を取りました。当院の姿を知っていただくには良い機会と思い掲載いたします。過去5年間の治療歴のある患者さんの数です。

 

内科疾患:

・2型糖尿病182人、高脂血症302人、高血圧症435人、高尿酸血症109

・慢性腎臓病244人、慢性腎不全16人、IgA腎症6人、慢性糸球体腎炎5人、多発性のう胞腎8

・肺気腫16人、気管支喘息152

・心房細動8人、陳旧性心筋梗塞9人、狭心症42

・慢性胃炎327人、逆流性食道炎51

・脳梗塞23人、甲状腺機能亢進症6人、甲状腺機能低下症7

 

泌尿器科疾患

・前立腺がん201人、膀胱がん132人、腎がん37人、腎盂がん11人、尿管がん12人、精巣がん6人、がん性疼痛緩和(麻薬投与)6

・過活動膀胱1329人、神経因性膀胱441人、自己導尿患者数74人、前立腺肥大症1046人、間質性膀胱炎7人、慢性前立腺炎88

・尿路結石548

・急性膀胱炎1582人、急性腎盂腎炎49人、急性精巣上体炎88

・夜尿症197人、膀胱尿管逆流症11

・クラミジア尿道炎164人、淋菌性尿道炎64人、梅毒6人、尖圭コンジローマ17人、性器ヘルペス18人、勃起不全190人、男性更年期26

 

皮膚科疾患

・アトピー性皮膚炎463人、皮脂欠乏性皮膚炎2576人、手湿疹963人、脂漏性皮膚炎718

・蕁麻疹490人、かぶれ1726

・イボ1001人、水イボ282人、帯状疱疹198人、単純ヘルペス361

・飛び火349人、にきび294

・足白癬758人、爪白癬124

・粉瘤90人、粉瘤化膿135

・男性型脱毛35

・尋常性乾癬24

 20年前Stanfordでお世話になった方がフランスのブーレズ・パスカル賞を取られたとの報告が年賀状でありました。不覚にもブーレズ・パスカル賞を存じあげていなかったので調べてみるとノーベル賞受賞者もこの賞を多く受賞しているらしく、受賞者はパリ大学に招聘され1年半の間、研究と講演をする栄誉が与えられるようです。お正月から学問に身を捧げる人の成果を聞けて本物の学者の生き様に感動しました。大学の留学生センターでアパート探しに途方に暮れている時、声を掛けてくれた初めての日本人が奥様でした。疲れ切っていた私をよっぽど哀れに思われたのかその日の夕食に招いていただき、美味しい手作り料理で生き返ったことを思い出します。現地の医学系留学生は一様に耐乏生活でしたが、ご夫婦は省庁からの派遣なので車も2台支給されてMenlo Parkの高級アパートに住んでおられました。1995年頃はインターネットの創成期でしたので、私はメールを使った経験もなく留学前は米国とはFAXでやりとりをしていました。いきなりメールアドレスを聞かれて恥をかいた覚えがあります。メールでなんでもできる今とは隔世の感があります。

 私の住まいとなったCalifornia ave.界隈ではgoogleなどが産声をあげていたようですがその存在を知るのはもっと後になってでした。Hewlett-Packardの敷地の間を通って研究室に毎日通い、波乗りに行くときはいつもAppleの建物を横目で見ながらfreewayを車で走ってました。大学内にはMicrosoft寄贈の校舎も建造中でした。まさにITの勢いを感じる頃だったと思います。しかしながら私の周りにはIT関係者はおらず、正直言うと当時はその本当の可能性を理解しておりませんでした。ただ、世界中の研究者がStanfordに集い切磋琢磨している事は肌で感じておりました。私のアパートの隣は神戸大学の医師で不夜城の研究室で猛烈に研究しており、階下はウイーン大学のウイルス学者の家族が住んでおりました。途中でお隣さんが理化学研究所の統計学者に変わったので統計の相談に行ったら、半端なく深い話になりまったく理解不能でしたが数学者の奥深さだけは理解できました。気楽に人に聞いてはいけないものだと反省した覚えもあります。大学周辺のカフェには週末はのんびりと新聞を読んでいる人達が沢山いますが、この中にノーベル賞の人もいるんだろうな〜と密かに思いながら家族と朝食を摂っていました。今でもStanfordには3〜4年に1回は訪れますが、Facebookの本拠地にもなっており時代の流れの傍観者のような気分になり、自分も齢を重ねているのだと自覚させられます。

血液検査でPSA (前立腺特異抗原) という物質が高い 値の時は肥大症や炎症以外に前立腺の腫瘍が疑われます。直腸診 (図1) や超音波検査、MRIなども前立腺の腫瘍を診断する手段です。しかしいずれの検査も、 疑いにとどまるだけで確定には至りません。前立腺腫瘍の診断を確定する唯一の方法は、前立腺の細胞を採取する前立腺生検です。

図1.名称未設定3.jpg

実際の生検の方法

 仙骨麻酔 (尾てい骨の近傍に麻酔を注射針にて注入する方法)を行った後に 肛門から超音波検査のプローブ(図2)をいれ、まず前立腺の内部の様子を調べます(図3)。その後、直腸内腔から直径約 1.5mmの針を前立腺へ向かって1012箇所刺し前立腺の組織を採取します。生検自体は約3〜4分で終了します。

 図2.名称未設定2.jpg  

図3. 名称未設定.jpgunnamed4.jpg

生検後の合併症

1) 血尿 (約30%)

 前立腺は膀胱の出口にあるため、検査後に血尿となることがあります。通常は23日で肉眼的には消失します。しかし血尿が強い場合は、入院紹介が必要となる場合があります。また狭心症、脳梗塞などのため抗凝固剤 (血液を固まりにくくするお薬) が投与されている場合は、薬の内服を7日間以上中止する必要があります。受診時には必ず現在飲んでいる 薬を持参してください。抗凝固薬、抗血小板薬としてよく使用されるのは、バファリン、パナルジン、 パナピジン、ワーファリン、エパデールなどです。これらの薬を内服されている方は申し出てください。

2) 発熱 (約1〜3%)

 生検の時は大便の通り道から針を刺しますので細菌を前立腺へ押し込み前立腺炎を引き起こす危険があります。そのため検査当日から数日間は抗生物質を投与します。 発熱した場合は、入院紹介が必要となる場合があります。

3) 尿道出血・血精液症

 検査後下着に血が付いたり、尿の出始めに血が出たりすることがあリます。また精液に血が混じり、赤色から茶褐色になることがあります。これらの症状がしばらく続くこともありますが、通常 健康への影響は有りません。

4)尿閉

前立腺の大きい人は、生検により一過性に尿が出ない(尿閉)になることがあります。その場合は数日間は尿道留置カテーテルという管を尿道に入れておかなくてはなりません。


生検前後の注意点

 生検日の朝にはなるべく排便してきてください。便秘などにて排便の自信がない方には便秘薬を処方いたしますので、申し出てください。

 生検後には、院内で1〜3時間安静にして貰います。自動車を運転して来られた場合には、十分に休んでから帰宅して貰う必要があります

 生検によって前立腺は炎症を起こします。そのため以下のことを守ってください。

アルコールは1週間控えてください。アルコールは血管を拡張する作用があり前立腺の炎症を助長する事があります。自転車・バイクも1週間は乗らないでください。機械的に炎症を増悪させることがあります。また長時間 (2時間以上) 座ったままでいることも好ましくありません。細菌感染予防のため、4-7日間程度、抗生物質を服用していただきます。

 

生検の結果と陰性の場合の注意

 生検の結果は2週間前後で判明します。結果については院長より説明があります。

腫瘍 () が検出された場合は、病気の進展度 (広がり) を検査した上で、最も適当と思われる 治療法の相談をご本人・ご家族を交えて行っています。

 腫瘍 () が検出されなかった場合は、ほぼ大丈夫と判断されます。しかし病気が存在しているのに針が当たらなかったり、非常に小さな病巣で発見できないこともあります。病気が見つからなかった方でも、定期的 (3ヶ月から1年ごと) に血液検査などを受けることをおすすめします。その後もやはり腫瘍が疑わしい場合は、再度生検をおすすめする場合があります。

PSAとは前立腺癌があると上昇する血中腫瘍マーカーです。前立腺癌では約90%以上の人が高値を示します。しかし,前立腺肥大症の方でも高い値になりますし、加齢とともに前立腺癌がなくても上昇することが知られています。その他、急性前立腺炎などの炎症でも急上昇することもあります。つまり、"PSAの上昇=前立腺癌"があるという訳ではありません。PSAの上昇を認める場合、以下の手順で検査します。PSAが4〜10ng/mlで約30% 10 ng/ml以上で約60%、40 ng/ml以上で100%の確立で前立腺癌があるとも報告されています。 

初診日

1.PSA・検尿を検査します

2.エコーで前立腺を観察します

3.直腸診(直腸に指を入れて前立腺の硬さをみます)をします

4.ここまでの検査がすべて正常であれば終診です。念のため6ヶ月?1年後には再度PSAの検査をしてください.

5.PSAが当院の測定でも異常の場合は(4ng/ml以下が正常),MRI検査を施行後、経直腸的エコーと前立腺生検を行います。当院では日帰り検査となりますので、1時頃から生検(仙骨麻酔などの準備に20分ほど掛かりますが、生検辞退は数分で終わります)し、出血が少なく排尿できれば3時には帰宅してもらいます。

 

再診日(前立腺生検による組織学的検査の結果が約10日後に判ります)

1.組織学的検査にて癌がある場合は,さらに精密検査が必要です。

2.PSA4~10ng/mlで組織学的検査にて癌がない場合は,3ヶ月おきにPSAの検査をします.PSAの上昇が続く場合は,あらためて前立腺生検をする必要があります。

3. PSA10ng/ml以上で組織学的検査にて癌がない場合は,1年以内に再度,前立腺生検を御願いすることもあります。 

 PSAが高い場合は,前立腺生検による結果が正常でもPSAを定期的に測定する必要があります.その理由は前立腺生検の針が癌に当たっていない可能性もあるからです。

 手術分野の進歩はめざましく、術者の努力とは別に医療機器の進歩に追いつくこと、つまり"病院が機器を購入できるか否か"が大きく医療レベルを左右する時代になってきています。例えば30年前であれば尿路結石治療は、開腹手術であったが体外衝撃波が出現してから大きく変化し、今では開腹することは希有な症例となっています。

 さて、腹腔鏡手術を代表とする低侵襲手術が時代の花形になろうとしています。その背景として、現在の日本の平均寿命は男性79.6歳,女性86.4歳と超長寿国家になってきており、平均余命も80歳では男子8.7年 女性11.7年と伸びていることが挙げられます.そのような時代背景から80歳を越える高齢者癌に対しても積極的に外科的治療を行わなくてはならない時代を迎えているのが現状であります。

 山陰のような人口の少ない地域で最新医療を習得するには、それなりの努力と運が必要となります。幸いにも鳥取県立中央病院、鳥取大学附属病院で多くの腹腔鏡手術症例を経験することができ、山陰で最初の腹腔鏡技術認定医を習得できたのも運が良かったのだと思っています。写真は腎臓摘除術の一コマです。当初は指導者が居ないわけですから精神力が必要とされましたが、最近では7年目の医師でもモニターで誘導してあげれば完遂することが出来る程、確立した手術になっています。

1.jpg

 前立腺全摘除術に関しては、ある大学病院での事故もあり腹腔鏡手術は鳥取では選択されませんでした。我々はもう一つの低侵襲手術であるミニマム創手術を習得すべく努力しました。写真にあるように本来ならば2030cm程度の下腹部切開を5cm程度の切開創から多くの鉗子を突っ込み手術を行う方法です。 術中、出血などのトラブルがあれば大きく創を広げれば良いので、比較的安全な手術と考えられています。術後の創は写真のように小さいのですが、慣れていない術者にとっては負担の大きな手術でした。

2.jpg       3.jpg

 山陰で低侵襲手術を定着させようと日々努力をしていた頃、黒船が突然やって来ました。ダビンチという医療機器を用いたロボット支援手術です。daVinci2000年頃から米国で爆発的普及し,ヨーロッパに続きアジアで普及され,全世界で2000台を越えています.10年ほど前に米国泌尿器科学会でビデオ発表を見た時は"やり過ぎなのではないか?"とさえ思ったものでしたが、予想は外れて米国では標準治療になっております。米国では前立腺全摘除術は年間7万症例ありますが,そのうち8割以上がダビンチ手術で行われているのが現状です.また,子宮全摘除術に関しても、全手術の3割以下ではあるが症例数としては約10万例を超えていると聞いております.

名称未設定 1.jpg       名称未設定 2.jpg

 日本は薬事承認は遅かったため,アジアで最も普及の遅い国でした。鳥取大学では,全国の国立大学の中では早い時期に導入しており平成22年より開始しています。現在,日本には約30台以上稼動していますが、日本にはCTが異常に多いのと同じように過剰に購入されていく運命かもしれません。ちなみに費用ですが,機器本体(3億5千万円)にメンテナンス料が年間に機器価格の10%ほど必要となります.さらに,1回の手術の消耗品にEndoWrest(鉗子) 25万円を含めて合計40万円かかるとのことです.黒船と先述しましたが、このような高価な医療機器は日本の医療制度も再考しなければならない状況を招いています。お隣の韓国では混合診療(保険診療と自由診療)が認められているため高額なロボット手術が速やかに普及しましたが、許されていない日本では大きく出遅れました。今のところ先進医療と言う名で混合診療まがいなことができていますが、制度破綻が来る日も遠くないかもしれません。

 日本で薬事承認されているのは 泌尿器科 婦人科 胸部外科 消化器外科領域ですが、今後は心臓手術や頭頸部外科にも適応が拡大していくかもしれません。幸いにも前立腺全摘除術だけは,本年4月より保険診療が可能となり患者負担が激減しています。しかしながら、病院側にとっては前立腺全摘除術を年間100例以上施行して元が取れる程度の低い点数設定になっているため、地方においては大学病院以外で普及するには少し時間が掛かるかもしれません。

 ダビンチですが写真のように、術者は手洗いの必要がなく離れた場所のコンソールに座り3Dの視野にてアームの操作をテレビゲームのように行う事が出来ます.腹腔鏡視野とは異なり術野の中に入っているような感覚でストレスなく行うことができると聞いています。手先が器用な日本人は腹腔鏡による微細な縫合を努力で習得していましたが、不器用な(?)米国人の間で爆発的に普及していることから分かるように、容易に縫合などもできるようです。

 米国のクリーブランドクリニックでは単孔(一つの穴から)によるロボット手術なども行われており、この恐ろしい進歩に追いついていくには医師の努力と病院の経済力(患者の集約化と病院の統廃合などが必要)に掛かっていると考えています。


2016年2月追記:

 上記のブログを書いた2012年には40台も無かったダビンチですが、保険収載(健康保険が適用される)されるや全国で爆発的に導入され2015年には200台も購入されております。鳥取県でも鳥取赤十字病院に県内2台目のダビンチが稼働しており、私も数例参加させていただきましたが素晴らしい手術方法だと感動しました。ロボットアームがせわしなくコミカルに動くのですが、モニターに映るその視野の良さと的確な動きには脱帽しました。2012年当時はアジア地区では大きく遅れをとっていたこの分野ですが、あっと言う間に普及し当たり前の手術になろうとしていることを考えると、ロボット手術に限らず今後の医療の発展は想像もつかないと畏怖する次第です。



 

 

先日、地元ケーブルテレビで"前立腺がん"に関する収録がありました。
スライドで講義をするのと異なり、カメラに向かって噛まずに台詞を喋っていくことの難しさを知らされました。

https://www.youtube.com/watch?v=kxu5iUFGYDU&list=HL1393842343&feature=mh_lolz

残念なことに、1年前の"過活動膀胱について"の収録に比べ明らかに太っています。

私は、若い先生を指導する立場にいたためいろいろな資格を修得しているが、専門医だから本当に腕が良いとか名医であるというわけではないと自覚している。専門医でなくとも良い先生はたくさんいることは事実である。さて、私がもっている資格の中でも"がん治療認定医"と"がん治療暫定指導医"がある。今回は、癌に対する基本的な考え方を簡単に述べてみたい。

 マスコミやテレビでは、名医は特別な診断をして特別な治療をしているかのようにストーリーをつくるが、実際にはいろいろなエビデンス(統計的に裏打ちされた医学的証拠)に基づいた標準治療をすることが最優先だと考えている。このスタンダードな治療をすることが、まともな治療だと認識している。ただし、現在においては解明出来ていないグレーな部分や意見が分かれる部分に関してはガイドラインにもそのように示されており、医師や治療機関によって違う治療法になることがある。

 一般的に癌に対する治療方針は、1)癌の悪性度と2)癌の進行度によって決定される。"癌の悪性度"の表し方は(高分化型→中分化型→低分化型)とか(G1G2G3)等が癌の種類によって決まっている。ちなみに→の方向に悪性度が高くなり性格の悪い癌である。一方、"癌の進行度"のことを"病期"とか"ステージ"など言うことが多いが、TNM分類というものが広く使われている。Tは腫瘍の大きさや根の深さ(浸潤度)、Nはリンパ節転移の有無、Mは遠隔転移(例えば大腸癌の肝臓転移など他臓器への転移)を表す。TNM分類により病期I→病期IV等に分類することになる。

 具体的手順として、我々は、癌を疑う腫瘍をみつけた場合、まずは生検(組織を微量に採取すること)を行い"癌の悪性度"を診断する。そして病理組織学的に癌の確定診断を得られたら、CTMRIなど画像診断で"癌の進行度"(病期)を調べる。これらの結果より表1のように当てはめコンセンサスの得られた治療法が決めていく。癌の悪性度が高いほど、病期が進行しているほど大きな手術になり、他臓器転移があれば多くの場合は抗がん剤治療を中心として集学的治療(抗がん剤+放射線治療、もしくは+外科的治療など)になることが多い。

 癌の診断や治療方針は、ある意味では画一的に患者さんの気持ちの整理の早さを越えて行われていく。所謂、医師が集まり症例を検討するカンファレンスで問題となるのは、治療方針がグレーの部分(コンセンサスが得られていない部分)や重篤な合併症を持った患者さんなどである。カンファレンスでは患者さんの希望・年齢・背景なども考慮されていくことも重要なことである。

 前立腺癌などのように同じ病期でも標準治療の選択枝がたくさんある場合などは、患者さんによく説明し各治療の利点・欠点を丁寧に説明してから治療方針を決定しなければならない。ただ医療に素人である患者さんしてみれば、降って湧いたように癌の宣告をされ、どんどん進められる検査の果てに治療選択枝を3つも4つも並べられては混乱するし決断もできないことが多い。私は、一通り説明した後、"私があなたの立場ならこの治療方針を選びます"、"あなたが私の父であればこの治療法を選択します"と個人的な意見を添える様にしている。

 名医とは独善的な治療をおこなう事ではなく、標準治療を丁寧におこなう事だと考えている。手術に限って言えば、確立された手術方法とは何処で誰が行っても同様な結果が得られるものを指す。ただ、その過程のなかにも、細心の注意を払う剥離や心を込めて縫合する部分や小さなコツがあったりするわけで名医とそうではない医師との差はそのような点で評価されるべきではないかと個人的には思っている。


治療選択.jpg