わたなべクリニク院長雑記: 癌アーカイブ

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診療統計は医療機関の評価や改善点の検討のため必要と考えております。当院では開院以来の6年間で計79症例の日帰り前立腺生検を施行しています。

1)患者背景

・平均年齢 66歳(51歳から79歳の方に前立腺生検を行っておりました。)

・PSA値 平均10.00ng/ml(中央値 8.0ng/ml) 実際にはPSA4.18から初診時に既に進行癌だった方のPSA2344ng/mlまでの幅がありました。また生検施行し前立腺癌を認めた被験者のPSAの平均値も10.00ng/mlでした。

・前立腺推定重量 54g(20180g) 前立腺の大きい方の生検は尿閉や血尿などの合併症が起きやすくなります。30g以上を前立腺肥大症と考えておりますが、180gの患者さんでも比較的年齢が若く排尿障害がない方でしたので生検後のトラブルはありませんでした。

2症例では脳梗塞後の抗凝固剤を内服しておりましたが、主治医の判断で休薬可能と判断され1週間休薬後に外来生検を施行しておりました。

2)合併症

・術後直腸出血:5分間程の圧迫止血を要する6

・血尿:生検直後に微量出血21例、翌日までの淡い血尿7例、2日目までの淡い血尿3例 7日目までの淡い血尿2例・・・45例は血尿を認めておりません。

・尿閉 2例:2例とも著明な前立腺肥大症の方で一人は帰宅後に排尿できず夕方に再受診され尿道留置カテーテルを1日留置しました。翌日抜去し自力排尿可能となり合併症はありませんでした。もう一人の方は夜間に基幹病院の救急外来受診され導尿をされました。翌日よりは正常に自力排尿可能でした。

・発熱・急性前立腺炎なし。

 前立腺生検で一番困る合併症は発熱・感染症です。出血はいずれ止まりますし、尿閉も一過性の合併症だと考えています。大学病院や基幹病院勤務の頃は年間5080例近い前立腺生検を経験しておりましたから、急性前立腺炎から敗血症に至った症例も複数回ありましたし、椎間板炎まで併発し椎弓切除術を必要とした症例も経験しております。予防的に抗生剤投与をしておりますが、症例数が増えればいずれ当院でも起きうる合併症と想定しています。前立腺生検のブログでは一般的な合併症の発生率も記載しておりますが、全国的な前立腺生検における合併症の発生率に比べ当院の合併症発生率は少ないようです。生検方法にコツはあるのですが、当院での合併症の少ない理由として 1)外来生検なので重篤な合併症のある方や合併症の起きそうな予感(非科学的な表現ですが、長年の経験でそう感じる時があります)がする場合は基幹病院に紹介している。2)教育機関としての基幹病院では研修中の医師が生検することが少なくない、ことが要因ではないかと推測しております。

3)生検結果

 31例(全体の39%)で前立腺癌を認めました。

悪性度が低い高分化型前立腺癌G1(グリソンスコア3+3)         :5例

悪性度が中等度の中分化型前立腺癌G2(グリソンスコア3+4)  :4例

悪性度が中等度の中分化型前立腺癌G3(グリソンスコア4+3) :7例

悪性度が高い低分化型前立腺癌G4(グリソンスコア4+4)        :7例

悪性度が高い低分化型前立腺癌G5(グリソンスコア4+5以上) :8例


2019年4月追記:開院以来の7年間で計90症例の日帰り前立腺生検を再検討しました。以下、結果です。

・平均年齢 66

生検結果:37例(全体の41%)で前立腺癌を認めました。

悪性度が低い高分化型前立腺癌G1(グリソンスコア3+3)         :7例

悪性度が中等度の中分化型前立腺癌G2(グリソンスコア3+4)  :5例

悪性度が中等度の中分化型前立腺癌G3(グリソンスコア4+3):8例

悪性度が高い低分化型前立腺癌G4(グリソンスコア4+4)       :9例

悪性度が高い低分化型前立腺癌G5(グリソンスコア4+5以上):8例


 

 

血液検査でPSA (前立腺特異抗原) という物質が高い 値の時は肥大症や炎症以外に前立腺の腫瘍が疑われます。直腸診 (図1) や超音波検査、MRIなども前立腺の腫瘍を診断する手段です。しかしいずれの検査も、 疑いにとどまるだけで確定には至りません。前立腺腫瘍の診断を確定する唯一の方法は、前立腺の細胞を採取する前立腺生検です。

図1.5.png

実際の生検の方法

 仙骨麻酔 (尾てい骨の近傍に麻酔を注射針にて注入する方法)を行った後に 肛門から超音波検査のプローブ(図2)をいれ、まず前立腺の内部の様子を調べます(図3)。その後、直腸内腔から直径約 1.5mmの針を前立腺へ向かって1012箇所刺し前立腺の組織を採取します。生検自体は約3〜4分で終了します。

 図2.3.png 

図32.pngunnamed4.jpg

生検後の合併症

1) 血尿 (約30%)

 前立腺は膀胱の出口にあるため、検査後に血尿となることがあります。通常は23日で肉眼的には消失します。しかし血尿が強い場合は、入院紹介が必要となる場合があります。また狭心症、脳梗塞などのため抗凝固剤 (血液を固まりにくくするお薬) が投与されている場合は、薬の内服を7日間以上中止する必要があります。受診時には必ず現在飲んでいる 薬を持参してください。抗凝固薬、抗血小板薬としてよく使用されるのは、バファリン、パナルジン、 パナピジン、ワーファリン、エパデールなどです。これらの薬を内服されている方は申し出てください。

2) 発熱 (約1〜3%)

 生検の時は大便の通り道から針を刺しますので細菌を前立腺へ押し込み前立腺炎を引き起こす危険があります。そのため検査当日から数日間は抗生物質を投与します。 発熱した場合は、入院紹介が必要となる場合があります。

3) 尿道出血・血精液症

 検査後下着に血が付いたり、尿の出始めに血が出たりすることがあリます。また精液に血が混じり、赤色から茶褐色になることがあります。これらの症状がしばらく続くこともありますが、通常 健康への影響は有りません。

4)尿閉

前立腺の大きい人は、生検により一過性に尿が出ない(尿閉)になることがあります。その場合は数日間は尿道留置カテーテルという管を尿道に入れておかなくてはなりません。


生検前後の注意点

 生検日の朝にはなるべく排便してきてください。便秘などにて排便の自信がない方には便秘薬を処方いたしますので、申し出てください。

 生検後には、院内で1〜3時間安静にして貰います。自動車を運転して来られた場合には、十分に休んでから帰宅して貰う必要があります

 生検によって前立腺は炎症を起こします。そのため以下のことを守ってください。

アルコールは1週間控えてください。アルコールは血管を拡張する作用があり前立腺の炎症を助長する事があります。自転車・バイクも1週間は乗らないでください。機械的に炎症を増悪させることがあります。また長時間 (2時間以上) 座ったままでいることも好ましくありません。細菌感染予防のため、4-7日間程度、抗生物質を服用していただきます。

 

生検の結果と陰性の場合の注意

 生検の結果は2週間前後で判明します。結果については院長より説明があります。

腫瘍 () が検出された場合は、病気の進展度 (広がり) を検査した上で、最も適当と思われる 治療法の相談をご本人・ご家族を交えて行っています。

 腫瘍 () が検出されなかった場合は、ほぼ大丈夫と判断されます。しかし病気が存在しているのに針が当たらなかったり、非常に小さな病巣で発見できないこともあります。病気が見つからなかった方でも、定期的 (3ヶ月から1年ごと) に血液検査などを受けることをおすすめします。その後もやはり腫瘍が疑わしい場合は、再度生検をおすすめする場合があります。

PSAとは前立腺癌があると上昇する血中腫瘍マーカーです。前立腺癌では約90%以上の人が高値を示します。しかし,前立腺肥大症の方でも高い値になりますし、加齢とともに前立腺癌がなくても上昇することが知られています。その他、急性前立腺炎などの炎症でも急上昇することもあります。つまり、"PSAの上昇=前立腺癌"があるという訳ではありません。PSAの上昇を認める場合、以下の手順で検査します。PSAが4〜10ng/mlで約30% 10 ng/ml以上で約60%、40 ng/ml以上で100%の確立で前立腺癌があるとも報告されています。 

初診日

1.PSA・検尿を検査します

2.エコーで前立腺を観察します

3.直腸診(直腸に指を入れて前立腺の硬さをみます)をします

4.ここまでの検査がすべて正常であれば終診です。念のため6ヶ月?1年後には再度PSAの検査をしてください.

5.PSAが当院の測定でも異常の場合は(4ng/ml以下が正常),MRI検査を施行後、経直腸的エコーと前立腺生検を行います。当院では日帰り検査となりますので、1時頃から生検(仙骨麻酔などの準備に20分ほど掛かりますが、生検辞退は数分で終わります)し、出血が少なく排尿できれば3時には帰宅してもらいます。

 

再診日(前立腺生検による組織学的検査の結果が約10日後に判ります)

1.組織学的検査にて癌がある場合は,さらに精密検査が必要です。

2.PSA4~10ng/mlで組織学的検査にて癌がない場合は,3ヶ月おきにPSAの検査をします.PSAの上昇が続く場合は,あらためて前立腺生検をする必要があります。

3. PSA10ng/ml以上で組織学的検査にて癌がない場合は,1年以内に再度,前立腺生検を御願いすることもあります。 

 PSAが高い場合は,前立腺生検による結果が正常でもPSAを定期的に測定する必要があります.その理由は前立腺生検の針が癌に当たっていない可能性もあるからです。

 手術分野の進歩はめざましく、術者の努力とは別に医療機器の進歩に追いつくこと、つまり"病院が機器を購入できるか否か"が大きく医療レベルを左右する時代になってきています。例えば30年前であれば尿路結石治療は、開腹手術であったが体外衝撃波が出現してから大きく変化し、今では開腹することは希有な症例となっています。

 さて、腹腔鏡手術を代表とする低侵襲手術が時代の花形になろうとしています。その背景として、現在の日本の平均寿命は男性79.6歳,女性86.4歳と超長寿国家になってきており、平均余命も80歳では男子8.7年 女性11.7年と伸びていることが挙げられます.そのような時代背景から80歳を越える高齢者癌に対しても積極的に外科的治療を行わなくてはならない時代を迎えているのが現状であります。

 山陰のような人口の少ない地域で最新医療を習得するには、それなりの努力と運が必要となります。幸いにも鳥取県立中央病院、鳥取大学附属病院で多くの腹腔鏡手術症例を経験することができ、山陰で最初の腹腔鏡技術認定医を習得できたのも運が良かったのだと思っています。写真は腎臓摘除術の一コマです。当初は指導者が居ないわけですから精神力が必要とされましたが、最近では7年目の医師でもモニターで誘導してあげれば完遂することが出来る程、確立した手術になっています。

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 前立腺全摘除術に関しては、ある大学病院での事故もあり腹腔鏡手術は鳥取では選択されませんでした。我々はもう一つの低侵襲手術であるミニマム創手術を習得すべく努力しました。写真にあるように本来ならば2030cm程度の下腹部切開を5cm程度の切開創から多くの鉗子を突っ込み手術を行う方法です。 術中、出血などのトラブルがあれば大きく創を広げれば良いので、比較的安全な手術と考えられています。術後の創は写真のように小さいのですが、慣れていない術者にとっては負担の大きな手術でした。

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 山陰で低侵襲手術を定着させようと日々努力をしていた頃、黒船が突然やって来ました。ダビンチという医療機器を用いたロボット支援手術です。daVinci2000年頃から米国で爆発的普及し,ヨーロッパに続きアジアで普及され,全世界で2000台を越えています.10年ほど前に米国泌尿器科学会でビデオ発表を見た時は"やり過ぎなのではないか?"とさえ思ったものでしたが、予想は外れて米国では標準治療になっております。米国では前立腺全摘除術は年間7万症例ありますが,そのうち8割以上がダビンチ手術で行われているのが現状です.また,子宮全摘除術に関しても、全手術の3割以下ではあるが症例数としては約10万例を超えていると聞いております.

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 日本は薬事承認は遅かったため,アジアで最も普及の遅い国でした。鳥取大学では,全国の国立大学の中では早い時期に導入しており平成22年より開始しています。現在,日本には約30台以上稼動していますが、日本にはCTが異常に多いのと同じように過剰に購入されていく運命かもしれません。ちなみに費用ですが,機器本体(3億5千万円)にメンテナンス料が年間に機器価格の10%ほど必要となります.さらに,1回の手術の消耗品にEndoWrest(鉗子) 25万円を含めて合計40万円かかるとのことです.黒船と先述しましたが、このような高価な医療機器は日本の医療制度も再考しなければならない状況を招いています。お隣の韓国では混合診療(保険診療と自由診療)が認められているため高額なロボット手術が速やかに普及しましたが、許されていない日本では大きく出遅れました。今のところ先進医療と言う名で混合診療まがいなことができていますが、制度破綻が来る日も遠くないかもしれません。

 日本で薬事承認されているのは 泌尿器科 婦人科 胸部外科 消化器外科領域ですが、今後は心臓手術や頭頸部外科にも適応が拡大していくかもしれません。幸いにも前立腺全摘除術だけは,本年4月より保険診療が可能となり患者負担が激減しています。しかしながら、病院側にとっては前立腺全摘除術を年間100例以上施行して元が取れる程度の低い点数設定になっているため、地方においては大学病院以外で普及するには少し時間が掛かるかもしれません。

 ダビンチですが写真のように、術者は手洗いの必要がなく離れた場所のコンソールに座り3Dの視野にてアームの操作をテレビゲームのように行う事が出来ます.腹腔鏡視野とは異なり術野の中に入っているような感覚でストレスなく行うことができると聞いています。手先が器用な日本人は腹腔鏡による微細な縫合を努力で習得していましたが、不器用な(?)米国人の間で爆発的に普及していることから分かるように、容易に縫合などもできるようです。

 米国のクリーブランドクリニックでは単孔(一つの穴から)によるロボット手術なども行われており、この恐ろしい進歩に追いついていくには医師の努力と病院の経済力(患者の集約化と病院の統廃合などが必要)に掛かっていると考えています。


2016年2月追記:

 上記のブログを書いた2012年には40台も無かったダビンチですが、保険収載(健康保険が適用される)されるや全国で爆発的に導入され2015年には200台も購入されております。鳥取県でも鳥取赤十字病院に県内2台目のダビンチが稼働しており、私も数例参加させていただきましたが素晴らしい手術方法だと感動しました。ロボットアームがせわしなくコミカルに動くのですが、モニターに映るその視野の良さと的確な動きには脱帽しました。2012年当時はアジア地区では大きく遅れをとっていたこの分野ですが、あっと言う間に普及し当たり前の手術になろうとしていることを考えると、ロボット手術に限らず今後の医療の発展は想像もつかないと畏怖する次第です。



 

 

先日、地元ケーブルテレビで"前立腺がん"に関する収録がありました。
スライドで講義をするのと異なり、カメラに向かって噛まずに台詞を喋っていくことの難しさを知らされました。

https://www.youtube.com/watch?v=kxu5iUFGYDU&list=HL1393842343&feature=mh_lolz

残念なことに、1年前の"過活動膀胱について"の収録に比べ明らかに太っています。

私は、若い先生を指導する立場にいたためいろいろな資格を修得しているが、専門医だから本当に腕が良いとか名医であるというわけではないと自覚している。専門医でなくとも良い先生はたくさんいることは事実である。さて、私がもっている資格の中でも"がん治療認定医"と"がん治療暫定指導医"がある。今回は、癌に対する基本的な考え方を簡単に述べてみたい。

 マスコミやテレビでは、名医は特別な診断をして特別な治療をしているかのようにストーリーをつくるが、実際にはいろいろなエビデンス(統計的に裏打ちされた医学的証拠)に基づいた標準治療をすることが最優先だと考えている。このスタンダードな治療をすることが、まともな治療だと認識している。ただし、現在においては解明出来ていないグレーな部分や意見が分かれる部分に関してはガイドラインにもそのように示されており、医師や治療機関によって違う治療法になることがある。

 一般的に癌に対する治療方針は、1)癌の悪性度と2)癌の進行度によって決定される。"癌の悪性度"の表し方は(高分化型→中分化型→低分化型)とか(G1G2G3)等が癌の種類によって決まっている。ちなみに→の方向に悪性度が高くなり性格の悪い癌である。一方、"癌の進行度"のことを"病期"とか"ステージ"など言うことが多いが、TNM分類というものが広く使われている。Tは腫瘍の大きさや根の深さ(浸潤度)、Nはリンパ節転移の有無、Mは遠隔転移(例えば大腸癌の肝臓転移など他臓器への転移)を表す。TNM分類により病期I→病期IV等に分類することになる。

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 具体的手順として、我々は、癌を疑う腫瘍をみつけた場合、まずは生検(組織を微量に採取すること)を行い"癌の悪性度"を診断する。そして病理組織学的に癌の確定診断を得られたら、CTMRIなど画像診断で"癌の進行度"(病期)を調べる。これらの結果よりガイドラインを中心にコンセンサスの得られた治療法が決めていく。癌の悪性度が高いほど、病期が進行しているほど大きな手術になり、他臓器転移があれば多くの場合は抗がん剤治療を中心として集学的治療(抗がん剤+放射線治療、もしくは+外科的治療など)になることが多い。

 癌の診断や治療方針は、ある意味では画一的に患者さんの気持ちの整理の早さを越えて行われていく。所謂、医師が集まり症例を検討するカンファレンスで問題となるのは、治療方針がグレーの部分(コンセンサスが得られていない部分)や重篤な合併症を持った患者さんなどである。カンファレンスでは患者さんの希望・年齢・背景なども考慮されていくことも重要なことである。

 前立腺癌などのように同じ病期でも標準治療の選択枝がたくさんある場合などは、患者さんによく説明し各治療の利点・欠点を丁寧に説明してから治療方針を決定しなければならない。ただ医療に素人である患者さんしてみれば、降って湧いたように癌の宣告をされ、どんどん進められる検査の果てに治療選択枝を3つも4つも並べられては混乱するし決断もできないことが多い。私は、一通り説明した後、"私があなたの立場ならこの治療方針を選びます"、"あなたが私の父であればこの治療法を選択します"と個人的な意見を添える様にしている。

 名医とは独善的な治療をおこなう事ではなく、標準治療を丁寧におこなう事だと考えている。手術に限って言えば、確立された手術方法とは何処で誰が行っても同様な結果が得られるものを指す。ただ、その過程のなかにも、細心の注意を払う剥離や心を込めて縫合する部分や小さなコツがあったりするわけで名医とそうではない医師との差はそのような点で評価されるべきではないかと個人的には思っている。

尿路変向術について

膀胱癌に対する膀胱全摘除術や直腸癌に対する直腸切断術は、尿や便の出る出口を新たに作らなければなりません。患者さんにとってはボディーイメージが変わり、本当に辛いことだと認識しています。ただ、そのために萎縮治療になり、手遅れの進行癌に至ることがあってはならないことと思っています。浸潤性膀胱癌の治療成績が20年前と大差がない原因の一つに膀胱全摘除術を選択するタイミングが悪いことも挙げられるのではないかと感じています。ただ、医師も人の子であり、迷う症例(尿細胞診では癌細胞はあるのだが、同定出来ない場合など)では膀胱全摘に踏み切れず後手に回ることが現実的にあります。

膀胱を摘出した後には,新たに尿の出口を手術により作らなければなりません.この手術を尿路変向術といいます.尿路変向にはいろいろな種類があり,それぞれ利点と欠点があります.年齢,病気の程度,全身状態などを考慮して決定する必要があります.

 

1.尿管皮膚瘻

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利点:

・一番簡単な尿路変向で身体への負担が一番軽い手術.

欠点:

・外とが直接つながっているので,腎臓の細菌感染が起きやすい.(腎盂腎炎になりやすい.)

・管が狭くならないように,尿管の中にステントという管を留置しておく必要があります.この管は定期的に交換する必要があります.

・尿の出口(ストーマと言います)に集尿器をつけなければなりません.

2.回腸導管

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利点:

・最も多い尿路変向で手術成績も安定している.

・尿管皮膚瘻と比べて腎盂腎炎になりにくい.

・尿管ステントの必要がない.

欠点:

・腸(約15cm)を使うので手術が大きくなり,術後の食事開始が遅い.また腸閉塞になる可能性がある.

・ストーマに集尿器をつけなければなりません.

3.新膀胱


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利点:

・お腹にストーマがなく,尿道よりの排尿が可能.手術前と見た目は変わらない. ただし,残尿が多い場合は自己導尿必要.  

欠点:

・腸(約60cm)を使うので手術が大きくなり,術後の食事開始が遅い.また腸閉塞,新膀胱の縫合不全など術後の合併症が増える可能性がある.

・尿道を残すので,腫瘍の尿道再発があり得る.

 

 最近では、技術も向上し新膀胱造設術を積極的に選択することが多い傾向です。

今年のUrological Nursing 1月号には、鳥取県立中央病院の看護師さんによる新膀胱の手術見学記が掲載されました。その際、術者コメントとして掲載された一文を併記します。

 

Urological Nursing  泌尿器ケア1月号 掲載

術者から・・・

膀胱全摘除術と新膀胱造設術は泌尿器科手術の中でも、比較的手術時間も長く浸襲も大きい手術です。本症例は、64歳男性で頻尿を主訴に受診され、尿細胞診異常で偶然に発見された膀胱癌です。腫瘍は主に膀胱左壁にあり、術前の病理組織学的診断は筋層浸潤を認める浸潤性膀胱癌であったため根治的膀胱全摘除術の適応と考えました。尿路変向術には、尿路ストマを必要とする1)尿失禁制尿路変向術(尿管皮膚ろう、回腸導管など)と、必要としない2)尿禁制尿路変向術(新膀胱造設術など)があります。本症例は、日常的にスポーツを楽しんでいる患者様でボディーイメージが損なわれない新膀胱造設術を希望されました。また、勃起機能の温存も希望されたため、腫瘍側でない右側の陰茎海綿体神経温存を試みております。

 本手術は1)右神経温存膀胱全摘除術 2)リンパ節郭清 3)新膀胱造設術の3つのパートに分かれますが、膀胱全摘除術は癌の根治性に注意しながら出血を少なく手際よく施行することが手術時間の短縮につながると考えています。一方、新膀胱造設術においては、時間が掛かっても丁寧に縫い上げることが術後のトラブルを少なくすると考えています。新膀胱造設術にはいろいろな種類がありますが、今回はStuder法を選択しました。本症例では 膀胱全摘術に90分、開腹から閉創までが6時間、出血量は1500mlであり、用意していた自己血1200mlで足りており、大きな問題はなかったと考えています。

術後の合併症として 1)腸閉塞 2)新膀胱からの尿漏などが挙げられます。尿漏は骨盤膿瘍に発展することがあるので避けなければならない合併症と考えています。よって、術後の管理として、新膀胱に留置しているカテーテル、尿管ステントの閉塞に注意する必要があります。カテーテル類の閉塞が尿漏や腎盂腎炎の原因となるからです。また、新膀胱に留置している尿道カテーテルは毎日洗浄して腸粘液で閉塞しないように管理する必要があります。

新膀胱造設術は 症例を選べばQOLも良く患者様にも喜ばれる手術です。カテーテル類は多く術後管理もやや煩雑でありますが、注意深い看護力によって患者様の周術期トラブルがなく快適にすごせるようにと願っております。

PSAとは前立腺癌があると上昇する血中腫瘍マーカーです.

前立腺癌では約90%以上の人が高値を示します.

しかし,前立腺肥大症の方でも高い値になりますし,加齢とともに前立腺癌がなくても上昇することが知られています.

つまり,"PSAの上昇=前立腺癌"があるという訳ではありません.PSAの上昇を認める場合、以下の手順で検査します.

 

初診日

1.PSA・検尿を検査します.

2.エコーで前立腺を観察します.

3.直腸診(直腸に指を入れて前立腺の硬さをみます)をします.

ここまでの検査がすべて正常であれば終診です.

念のため6ヶ月?1年後には再度PSAの検査をしてください.

PSAが当院の測定でも異常の場合は(4ng/ml以下が正常),経直腸的エコーと日帰り前立腺生検の予約をします.

 

前立腺生検

1.経直腸的エコー

2.前立腺生検(6~12箇所針で前立腺組織を採取します)

 

再診(前立腺生検による組織学的検査の結果が判ります)

 組織学的検査にて癌がある場合は,さらに精密検査が必要です.

PSA4~10ng/mlで組織学的検査にて癌がない場合は,3ヶ月おきにPSAの検査をします.

PSAの上昇が続く場合は,あらためて前立腺生検をする必要があります.

PSA10ng/ml以上で組織学的検査にて癌がない場合は,1年以内に再度,前立腺生検を御願いすることもあります.

 

 PSAが高い場合は,前立腺生検による結果が正常でもPSAを定期的に測定する必要があります.

その理由は前立腺生検の針が癌に当たっていない可能性もあるからです.

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