嚥下困難と胃瘻について 1. - わたなべクリニク院長雑記

嚥下困難と胃瘻について 1.

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先日 ある泌尿器癌で入院した70台前半の患者さんが 誤嚥性肺炎を起こした。入院前より脳梗塞後遺症があり発語障害 嚥下障害があったそうで家人も誤嚥をいつも心配していたそうである。入院してから環境が変わったせいか夜間せん妄を繰り返し、深夜勤務の看護師さんに苦労を掛けていた。

ちなみに"せん妄"とは意識混濁状態で幻覚などのため暴れたり訳の分からぬ事を言ったりする状態である。普段は紳士であった方なのに夜間せん妄で大暴れする方も少なくはない。病気・入院や手術、そして普段と違う寝台だけでも多くのストレスが患者さんは一度に背負い込むことになるので仕方がないことかもしれない。ストレスに弱い私など必発ではないかと心配している。点滴を引き抜いたり、ベッドから出歩いたりと、せん妄患者さんが一人おられると心身ともに看護師さんを疲労させることとなる。

話しを元に戻したい。胃瘻である。その誤嚥性肺炎の患者さんの嚥下機能を評価してもらうと、口から食べ物をとることは非常に危険であるとの結果でした。自分の唾液さえ飲み込めないとの評価。脳梗塞になって数年経つが、それまでも綱渡りで誤嚥を起こさなかったと推測される。もちろん今回はせん妄状態での飲食が誘因になったのであろう。医療側の結論は 胃瘻による管理が妥当とのこと。胃瘻とは、腹に孔を開け胃に管を留置して直接胃にミルクセーキのような食物を流し込む方法である。

大学勤務時代、アルバイトで長期療養型の病院で当直することがあったが、早朝5時頃から寝ている患者さんに胃瘻から流動食をどんどん繋げている作業を見たことがある。この異様な光景にかなりの衝撃を受けた事を今でも覚えている。植物状態の人や寝ている人に胃瘻を機械的に繋げていくのである。この是非は私の立場では断言できないが、"少なくとも私には止めてもらいたい"と言うのが個人的感想である。あるアンケート結果でも、自分には胃瘻をして欲しくないとの医療従事者の答が多かったと聞いている。

結局、1)胃瘻 2)誤嚥性肺炎の再発や窒息などの危険も承知の上で経口摂取の再開が選択肢として提示し、経口摂取を再開することとなった。その後、患者さんと家族の努力や嚥下チームや病棟看護師の熱意のおかげで誤嚥せず食べられるようになり退院された。もちろん誤嚥性肺炎の再発はあるが、取り敢えずは御自宅にかえることが出来たことを考えると、安易に胃瘻をしなくて今回は良かったと思っている。

医療費の高騰は今後も止まることはないだろう。健康保険の仕組みを見直す事も大事だが、胃瘻の適応なども学会の偉い方々で一定の方針を示してもらえたら、医療従事者が悩みを一人で抱えるような問題も減っていくだろうし、医療費も少しは減少するかもしれない。同様な延命治療として、ガン終末期医療や意識のないような超高齢者透析等の指針も示してもらいたい。治る見込みのあることならば、つらい治療も乗り越えて欲しいと思うが、そうでない場合は慎重な治療方針が必要と考えている。一般に治療選択肢を並列に提示すると、たとえ患者さんにとっては地獄の日々でも家族は延命治療を選ばれることが多い。

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このページは、watacliが2012年4月 4日 14:29に書いたブログ記事です。

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